対談 有識者×SPJOB

第4回「英国戦争学の厚みと歴史」

元海上自衛官 護衛艦さざなみ通信士 戦争学修士ロンドン大学王立学院 MICCHI インタビュー by 木本亮

MICCHI「留学して思ったことは、日本とイギリスでは人材の層の厚みが全然違うということです。一般国民の感覚も全く違っていて、それに気付かされたエピソードがあります。スーパーの雑誌コーナーに普通に戦史モノ、例えば「太平洋戦線における戦車戦、M4シャーマンと97式戦車の解説」とか並んでいます。」

木本「なんてマニアックな!」

 MICHI「日本だと神田あたりで探し回らないと見つからないような本が、イギリスでは主婦が通う普通のスーパーに置いてあったりします。」

木本「子供がお母さんにねだったりするのでしょうね。軍事に造詣の深い子供が育まれますね。きっかけはスーパーの立ち読み。」

 MICCHI「階級社会の良い側面も垣間見ました。例えば旧植民地においては、軍の代表、赤十字の代表、行政の代表がみんなアッパークラスで、同じ名門校を出ているとか親戚関係にあったりで、集まって気さくにお茶しながら情報交換していたりします。」

木本「そう言う人たちは入れ替わらないし、長い時間軸で関係を築く。」

 MICCHI「はい。だから軍が赤十字に対してある意味でナアナアな頼み事とかもできてしまう。今度あそこに行くなら、うちの人間も一緒に連れて行ってよー、みたいな。軍隊と人道支援機関は普通は相入れないものなのですが、そういうつながりで話がついたりする。」

木本「普通は人道支援なんかのNGOは軍組織とソリが合わなかったり接点が持てなかったりしますよね。仮に連絡したいと思っても、名前も顔も携帯番号も知らない、みたいな。」

 MICCHI「イギリス人たちの場合は、それが幼馴染だったり親戚だったり、例えばイートンのような名門校の同窓生だったりするわけです。」

木本「イギリスで発展した諜報や護衛の歴史を紐解くと、その起源はエリザベス1世(1533年〜1603年)の時代にあることがわかります。ローマ教皇に異端として破門されたエリザベス女王は命を狙われたため、否が応でも対策の必要性に迫られた。イエズス会やスペイン国王が放った暗殺者など、20回を超えると言われる暗殺計画を未然に防いだ。」

 MICCHI「確か側近に護衛と諜報を司るマスターがいたんですよね。」

木本「そう。暗殺対策として諜報や護衛の技術が発展した歴史があります。フランシス・ウォルシンガムという天才的側近がいたから大英帝国は世界を制することができた。神のご加護だとか処女王だからということじゃなく、強くなったのにはちゃんとワケがある。そしてそこから現代に至るまで400年の歴史がある。現代でも貴族が諜報の最前線に携わったりして、堂々と本名を名乗って公の場に出てくる。だから信用もされるし情報も集まってくる。お役所仕事で数年間赴任して異動で去る人とは背負っているものが本質的に違う。例えばジェームス・ボンドがあんなに頑張れるのは女王陛下のためやお仕事としてではなく、ボンド家の名誉、財産を守るためっていうことだと思うのです。」

 

第5回「守れない日本、戦えない日本!」に続く


編集後記1by木本亮・エリザベス女王の秘書長官

フランシス・ウォルシンガムとはエリザベス1世の秘書、護衛、諜報を司った宰相(1532年〜1590年)。

「エリザベス」「エリザベス:ゴールデンエイジ」(ケイト・ブランシェット主演映画)ではウォルシンガム役をジェフリー・ラッシュが演じている。同作品をご覧になった方の中にはご記憶にあるかもしれない。

ある高官がウォルシンガムの情報収取能力の高さに目をつけ大抜擢した1569年、ウォルシンガム37歳のころ、この高官との書簡やり取りでウォルシンガムが残した興味深い言葉がある。

There is nothing more dangerous than security.

意訳すると「安全だと思って安心しきった時ほど最も危険だ」ということだろう。どんなに平和な時でも常に脅威を想定して警戒している必要があるのだ、次の戦いのために備えておかなければならないのだと。

被害妄想か強迫神経症かと疑いたくなるが、ウォルシンガムのような立場では仕方ない。

ウォルシンガムは大きな功績がありながらも「女王から私は嫌われている」「苦労しているのに女王は分かってくれない」「女王の決断が遅いせいで苦労が台無しになる」と日頃からぼやいていた。40代の半ばからは体調を悪くすることが多くなる中で仕事を続け、58歳で亡くなっている。

必要な資金をエリザベス女王が渋って出さないため、自分名義で国庫に負債をする形で資金を工面していた。女王陛下を守るためであったにもかかわらず、死後は膨大な借金が残される不運な面もあった。

この機会に是非皆様にも知っていただきたい。イギリスが護衛、諜報で屈指の力を誇ってきた理由とその起源。

フランシス・ウォルシンガムとは、400年前にその礎を築いた名宰相だということ。

エスピー・ジョブ 木本亮

投稿者の記事一覧

警護学校「SAFE HOUSE」総長
http://safehouse.toyko/

□監修□
フジテレビドラマ「SP 警視庁警備部警護課第四係」('07)
映画「SP THE MOTION PICTURE 野望篇・革命篇」('10,'11)

□身辺警護考証□
NHKドラマ「4号警備」('17)

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