コラム

コラム「要人警護」 銃の取扱い訓練 in ロンドン(後半)

コラム要人警護18

銃の取り扱いの”上手か否か”とは、的に当てる射撃技術のことではなく、まずは適切な免疫(つまり判断能力)を身につけること。

前回に引き続き今回もこのテーマでお話しさせて下さい。

 

訓練課程は全体の最終段階に差し掛かかっており、いよいよこれまでの総合力が試される「銃撃を想定した対処訓練」がはじまった時のこと。

まさに「銃を携帯してしまうことで失われてしまう判断能力」について実感したエピソードです。

 

この訓練を受けるため私たち訓練生は宿舎をバスで出発し、今までとは違った特別な施設に移動しました。

セスナ、ヘリコプターなど小型自家用機の離発着のために使われているローカルな空港です。とにかく広くて人影がありません。

警護車両の緊急走行訓練も行うため、このような場所がアレンジされているようです。

移動中のバスの中で私は、空港の一角を訓練で貸し切るなんて日本だったら不可能だな、などと呑気なことを考えていました。

 

バスから降りると全員が飛行機の格納庫内に集められ、事前説明がはじまりました。

教官たちはいつになく厳しい表情。とても驚きました。

 

「今日から始まる模擬訓練は、あらゆる事態を想定して対処するように!!」

 

全員が、手渡された空砲の9mm弾15発を必死になってマガジンに詰めました。使用する銃はグロッグ。

ちなみに空砲弾とは、発砲すると弾は出ませんが実弾の半分ほどの爆音と反動があり、軍や警察も使う訓練用のものです。

 

何が起きてもおかしくない模擬訓練の初日がスタート。

私たちのチームは出だしの1発目です。前後2台の車両に分乗し、滑走路上にてスタンバイしました。

先導の車両には訓練生3人、後続の車両には警護対象者(の役を演じる教官)と訓練生2人。

私は後続車両の助手席(警護対象者座席の前)にポジション。全体の指揮をとり、有事には警護対象者をカバーして離脱を主導する役割です。

右腰に装着した銃の重みをヒシヒシと感じました。

 

開始の合図で車両を進め、500ヤードほど滑走路上を走行したとき。

「管制塔の前で停車。警護対象者を降車させ、塔内までエスコートせよ。」と教官から指示されました。

 

見たところ動線上に異常は無く、不審物の形跡もありません。

『オールクリア』

私が無線機のマイクにつぶやくと同時に訓練生が降車し、警護対象者を格納庫内まで護衛する隊形を整えました。

その素早さたるや見事なものです。いままで何百回と繰り返し体にしみ込ませてきた成果です。

隊形の完璧さと安全の確認をしたあとに私も降車し、後部座席のドアを開けて警護対象者を車外へ誘導しました。

手順はスムーズに流れ、あと10ヤードほどでゴール(に設定された管制塔の入口)というとき。

 

興奮した様子の男性が正面入口の奥から現れて

「サインしてください!!」

ノートとペンを握りしめてこちらに走ってきます。

 

『サインに応じますか?』と私は警護対象者(の役の教官)に意思確認した上で、近づいてきた男性を一旦止めて落ち着かせてから、ペンとノートを預かり警護対象者に手渡しました。

 

よくありがちな、熱心過ぎるファンがいきなり近寄ってきてサインを求める、という状況です。

ファンの動きから目は離せませんが、まだ危険な状況とはいえません。

この程度で慌てふためいてしまうなど、私たちには許されません。

 

ところが・・・

 

チームメンバーの1人は銃のホルスターに手がかかっており、なんと2人が銃口をファンに向けてしまっています。

早まってしまった3人の訓練生に向かって私は、すぐに銃をしまうように指示します。

 

これこそ、銃を持ってしまったが故の「判断能力の狂い」です。

 

案の定、ファンの男性(を演じている教官)は私たちに向かって

『おいおい、あんたたちはファンがサインを求めただけで撃ち殺そうとするのかい?!』

と大声で罵りはじめたのでした。銃を携帯した訓練においてよくありがちな訓練生の大失態を、はじめから見抜いているようでした。

 

チーフ教官の一斉号令で、私たちの初回模擬演習は一旦終わりを告げられました。

車両を次の訓練チームに引き渡し、講義室に移動して反省会。銃を抜いてしまった2人は、自分のやったことが信じられないという様子で凹んでいました。

 

反省会の最中に滑走路の方から銃声が聞こえてきました。どうやらサインを求めるファンに発砲してしまった訓練生がいるようでした。

 

警護における銃の取り扱いとは、その魔力に取り憑かれないように免疫をつけることだ。

教官が口酸っぱく繰り返していた言葉の意味を、皆が身をもって実感したのでした。

 

その翌日から想定は究極までエスカレート。狙撃されたり、手榴弾が転がってきたり・・・。

空砲弾を撃ち尽くすまで反撃しなければ合格をもらえない日々が続きました。

 

銃を使うべきところ、そうでないところ。銃を携帯した警護においては、その判断こそが最も肝心で難しいのでしょう。

この訓練を受けた直後の私はそのことを痛感しました。

 

この訓練を受けて15年ほど経過した今、

『警護するために銃は役に立たず、むしろ悪影響。そもそも銃自体が世の中に不要なのではないか。』

と感じています。

 

後半、おわり。

エスピー・ジョブ 木本亮

投稿者の記事一覧

警護学校「SAFE HOUSE」総長
http://safehouse.toyko/

□監修□
フジテレビドラマ「SP 警視庁警備部警護課第四係」('07)
映画「SP THE MOTION PICTURE 野望篇・革命篇」('10,'11)

□身辺警護考証□
NHKドラマ「4号警備」('17)

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