コラム

コラム「要人警護」 弾丸を受け止める契約(後半)

コラム要人警護7-1 エスピージョブ 弾丸を受け止める契約 前半

官(警察)による警護活動には契約そのものが存在しない。警察が勝手に警護官を派遣し警護対象者は警察の活動に協力する。そういう慣例になっているだけなのだと。前半ではそのことについてお話しました。

 

 後半のテーマは、民間において「弾丸を受け止めてでもお客様をお守りしますという契約条項」(以下、弾丸条項と呼ぶことにする)は存在するのか、有効なのかということです。

 

結論から申しますと、存在しませんし無効です。

 

理由は二つ。

 

一つ目。

 

致命的なリスクを代行する営利サービスなど、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の白熱教室“正義とは”ではないですけれど、その存在自体が正しくありません。例えば売血や代理出産を市場原理に任せることは、日本を始め多くの国で認められていません。弾丸条項はこれと同様だと私は思っています。

 

二つ目はテクニカルな問題です。弾丸の速度は遅くともマッハ(音速)0.5くらい。早ければマッハ2以上。どんなに受け止めたいと思っても約束することが無理なのです。

 

「可能な限り危害発生の予防に努めるが、身を挺してまで守る義務はないものとする」

という説明を契約前におこないお客様に理解を得ること、契約書にも文言を明記することが必要です。

 

ある警備会社で私が警護課の新設に携わった時の話しです。まず弾丸条項についてのスタンスをクリアにしておかなければ“民間における警護のあり方”は進化しないと感じました。「警護とは命を切り売りする仕事なのか?」という疑問に明快な答えを用意しておく必要があったのです。警護員は熱心さのあまり、ただでさえ必要以上のリスクを負い、お客様の役に立とうとする傾向があります。不思議とそういうものなのです。だからこそ、このサービスを日本国内で適切に広めていくために、お客様への説明のためにも、早期に結着を付けておかなければならない問題でした。

 

当時の法務担当の方々のご協力もあり、日本で初めて「弾丸条項にはっきりと白黒をつけた警護契約書」を作りました。それ以降ずっと“警護サービスを適切に普及していくためのツール”としてこの契約書は大活躍し、いまでも引き継がれています。

 

お客様は口を揃えて「いわれてみれば、確かにそうですね。」と皆様ご納得でした。「納得いかない。盾になって死んでくれないなら契約しない」と言う方は一人もいませんでした。

 

これにはとても感激しました。

 

ご参考までに申しますと契約上の責任を問われるのは「警護員の過失によってお客様が被害にあった場合」です。警護員が居眠りするなどして警備活動を行わず、そのせいで被害を受けた場合などです。

 

話しの角度を変えます。

 

弾丸条項を約束することは不実であり技術的にも不可能なことですが、結果として警護員が弾を受けてしまうことはあり得ます。

 

もし部下が弾丸を受けたら・・・

 

管理職としてもがいていた当時の私は、あらゆる事態を「妄想」する日々でした。

 

お客様と部下の命はどちらも等しく大切なものです。優劣はありません。

無駄なリスクをとった部下には「馬鹿野郎!やり過ぎだ!」と怒ります。もし何かあった場合にはご家族に対して(永遠に許されないでしょうが)土下座するしかありません。お客様には『それほどあなたをお守りしたかったのだと思います。褒めてやって下さい。』と申し上げます。

 

幸いにして妄想が実現することはありませんでしたが、想定は常にしておかなければなりません。高度な対処方法を身につけるために、皆でどれほど訓練したことでしょう。

 

  • 命の犠牲を肩代わりするサービスは社会的に成立しない。
  • 警護員は熱心過ぎてついつい不要なリスクをとりがち。
  • 警護員とお客様の安全を両立させるために相当な技術指導が必要。

何も考えずに盾になるだけなら、技術はいらないのです。

 

絶対に盾になります!

とか

死ねたら本望です!

と言っている他社の警護員を見たことあります。“警護員に聞きました”みたいな深夜バラエティー番組で。

 

もし自分にむかって弾が飛んできたら・・・。

その時になってみないとわからないというのがホンネではないでしょうか。

 

後半、おわり。

エスピー・ジョブ 木本亮

投稿者の記事一覧

警護学校「SAFE HOUSE」総長
https://safehouse.toyko

□監修□
フジテレビドラマ「SP 警視庁警備部警護課第四係」('07)
映画「SP THE MOTION PICTURE 野望篇・革命篇」('10,'11)

□身辺警護考証□
NHKドラマ「4号警備」('17)

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